退職金制度を見直す企業が増えている|転職市場から見た報酬の考え方の変化
退職金制度を廃止したり、見直す企業が増えています。
かつては終身雇用が一般的であり、長く勤めるほど手厚い退職金を受け取れる仕組みとして、退職金制度は多くの企業に定着していました。
しかし転職が一般的になった現在、長期雇用を前提として設計された制度が、必ずしも時代に合っているとは言い切れなくなっています。
実際に退職金制度に代わる仕組みとして、退職前払金や確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)へのシフトを進める企業も出てきています。
本コラムでは退職金制度の見直しが進む背景と、求職者・求人者の双方にとってこの変化がどのような意味を持つのかについて解説します。
退職金制度が前提としていた働き方
退職金制度がどのような時代背景のもとで定着したのかを、確認しておきましょう。
「定年まで勤め上げる」時代の制度
退職金制度は、一つの会社に長く勤めることが一般的だった時代の仕組みです。
勤続年数に応じて積み立てられていき、定年退職の時点でまとまった金額を受け取る。
長く働いたことに対する評価として機能していた制度であり、終身雇用を前提とした雇用慣行の中では合理的なものでした。
しかし現在は転職が珍しいことではなくなり、一つの会社で定年まで勤め続ける人の割合は以前と比べて減少しています。
例えば入職後5年で退職した場合、受け取れる退職金はごくわずかな金額にとどまるケースがほとんどです。
制度としては存在していても、実際にその恩恵を十分に受けられる人が限られているという状況が生まれています。
転職が一般化した時代とのずれ
私たちD&Mキャリアが転職支援を行う中でも、年代を問わず「今回を最後の転職にしたい」とおっしゃる方は多くいらっしゃいます。
しかし実際には数年後に再び転職を検討するケースもあり、結果として一つの会社での勤続年数が以前ほど長くはならない傾向が見られます。
こうした状況の中で、長期勤続を前提とした退職金制度が求職者にとってどれだけ魅力的に映るのかは、以前と比べて変わってきていると言えるでしょう。
退職金制度に代わる選択肢
退職金制度の見直しを進める企業が採用している、代替的な仕組みについて確認します。
退職前払金という考え方
退職前払金とは、将来の退職金に相当する金額を月々の給与に上乗せして支払う仕組みです。
退職時にまとめて受け取るのではなく毎月の手取りに反映されるため、在職中から実際に使えるお金が増えることになります。
金額としては月々数千円程度の上乗せであることが多いものの、物価の上昇が続く中では「将来まとめて受け取るよりも、今の手取りが増える方が魅力的だ」と感じる人が増えている印象があります。
特に転職直後は、生活環境の変化に伴う出費が発生しやすい時期でもあります。
入職した月から手取りに反映される退職前払金は、こうした時期の経済的な安心感にもつながります。
確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)へのシフト

もう一つの選択肢が、確定拠出年金へのシフトです。
企業型DCであれば会社が掛金を拠出して、運用は従業員本人が行います。
iDeCo(個人型確定拠出年金)であれば、個人が自ら積み立てと運用を行います。
確定拠出年金の大きな特徴は、転職した場合でも積み立てた資産を引き継げるという点です。
転職先に企業型DCがなくても、個人型に切り替えることで、運用を続けることが可能です。
一度この仕組みを利用し始めれば、どの会社に所属していても将来への備えを継続できます。
NISAをはじめとした資産形成の手段が普及している現在、自分で将来に向けた備えを進めるという考え方は、若い世代に限らず広がっています。
退職金制度と切り離して月々の収入を確保しつつ、将来への備えは確定拠出年金で行うという組み合わせは、現在の働き方に合った設計だと言えるかもしれません。
求人者側にとってのメリット
退職金制度の見直しは求職者だけではなく、求人者側にとってもメリットがあります。
運用・管理の負担とリスクの軽減
退職金制度を維持するには、積立金の運用や管理に一定のコストがかかります。
制度の設計や運用に関する事務的な負担も発生し、将来の支払いに備えた引当金の管理も必要です。
退職前払金に切り替えれば、こうした運用・管理の負担が軽減されます。
組織側にとっても月々の人件費として処理できるため、将来の退職金支払いに関する不確実性を抱えずに済むという利点があります。
採用面での訴求力
月々の手取りが増えるという仕組みは、採用活動においても訴求力を持つ可能性があります。
求職者が求人情報を比較する際に、退職金制度の有無よりも月給や年収の水準を重視する傾向が強まっているためです。
退職金制度がないことをマイナスに捉える求職者は以前と比べて少なくなっており、それよりも「入職した月から手取りがどのくらいになるのか」を重視する声を耳にする機会が増えています。
求職者の意識の変化
退職金制度に対する求職者の意識は、以前と比べて変化してきています。
退職金について質問する求職者が少なくなっている

私たちが転職支援を行う中でも、10年ほど前は「退職金制度はありますか」という質問を求職者から受けることがありました。
制度の種類まで確認される場面もありましたが、最近ではそうした質問はほとんど聞かれなくなっています。
退職金制度の有無を転職理由として挙げる人も、少なくなっている印象があります。
少なくとも私たちが支援する中では、「退職金制度がないから転職します」「確定拠出年金制度がないから現職を辞めます」という声を聞く機会はほとんどありません。
こうした変化は、求職者にとっての報酬の優先順位が「将来まとめて受け取る金額」から「今の月々の手取り」へと移りつつあることを反映しているように思います。
医療・介護業界における退職金制度の現状
医療・介護業界では、退職金制度の見直しに関する議論がまだ本格化していない施設も少なくありません。
医療機関や介護施設では制度を大きく変える変革に対して慎重な傾向があり、「入職3年以上の者を対象とする退職金制度」が現在も運用されているケースが多く見られます。
しかし退職前払金への切り替えについて経営者にお伝えすると、「確かにその方が合理的です」という反応をいただくことがほとんどです。
組織側の負担が減り、雇用される側の月々の手取りも増えるという点で、双方にとってメリットのある仕組みだからです。
業界全体として見れば、こうした見直しが今後さらに広がっていく可能性は十分にあるでしょう。
特に人材の確保が課題となっている施設にとっては、退職金制度を退職前払金に切り替えることで求人票に記載する月給の水準を引き上げられるという効果もあります。
求職者が最初に目にする月給の金額が上がることは、応募につながる一つの要素になり得ます。
報酬の考え方が変わる時代の転職活動
退職金制度の見直しは、報酬に対する考え方そのものが変わりつつあることの表れです。
求職者にとっては、退職金の有無だけで転職先を判断するのではなく月々の手取り、確定拠出年金の有無、自分自身での資産形成との組み合わせなど、報酬全体を総合的に捉える視点が求められる時代になっています。
求人者にとっては、退職金制度を維持することが必ずしも人材の確保につながるわけではないという点を踏まえて、自社の報酬制度を見直すきっかけになるかもしれません。
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