【転職支援の現場から】年収アップの先にあるもの|入社後の「期待値」を見据えた転職活動
※当コラムは、D&Mキャリアのキャリアコンサルタントが実際の転職支援で経験したエピソードをもとに執筆しています。なお、個人が特定されないよう、事実関係については一部内容を変更しています
「転職するのなら、年収を上げたい」
転職を考える時、このように思うのは自然なことです。
今よりも良い条件で働きたいという気持ちは、転職活動の大きなモチベーションになります。
先日私たちD&Mキャリアにご相談いただいた40代の男性A様も、年収アップを重視して転職活動をされていました。
そのためA様は、ある企業からの内定を「希望年収に届いていない」という理由で辞退しようとしていたのです。
本コラムではA様の事例を通じて、年収アップと入社後に求められる期待値の関係についてお伝えします。
年収アップにこだわるA様との出会い
A様は、医療機器メーカーで営業部長を務める40代後半の方でした。
業界での経験も長く、マネジメントの実績も豊富な方です。
転職理由と希望条件
A様が転職を考えた理由は、会社の業績悪化に伴う将来への不安でした。
現職の年収は800万円で、転職後も同水準か、できれば850万円以上を希望されていました。
「これまでの経験を考えれば、年収アップは当然だと思っています」
初回面談でA様はそうおっしゃいました。
確かにA様のキャリアは申し分なく、年収アップを目指すことは理解できました。
順調に進んだ転職活動
私たちはA様に、医療系企業の営業部門責任者のポジションをご紹介しました。
A様の経験が活かせる仕事であり、企業側もA様の経歴に強い関心を示していました。
面接は順調に進み、最終面接を経て内定が出ました。
しかし提示された年収は780万円でした。A様の現職より20万円低い金額だったのです。
内定辞退を考えるA様
内定の連絡を受けたA様は、すぐに辞退の意向を示されました。
「年収が下がる転職に意味はない」
「せっかく内定をいただきましたが、年収が下がるのなら転職する意味がありません」
A様の言葉には、強い失望が感じられました。
お気持ちは理解できます。転職で年収が下がることに抵抗を感じるのは、多くの方に共通する心理です。
しかし私たちはこのオファーの詳細について、A様にもう少し詳しくお話を聞いていただきたいと考えました。
オファー内容を詳しく確認する
私たちはA様とじっくりと面談を行いました。
そしてオファーの内容を、改めて詳しく確認することにしました。
提示された780万円は、初年度の金額です。
そして企業側からは、「1年後の評価面談で、実績に応じて850万円まで引き上げることを検討する」という説明がありました。
つまり1年かけて希望年収に到達する可能性があるオファーだったのです。
「それでも、最初から850万円で入社できる会社を探した方が良いのではないでしょうか」
A様はそうおっしゃいました。
私たちはA様のお気持ちを受け止めた上で、改めて考えていただきたいことをお伝えしました。
年収と入社後の期待値
ここで私たちは、A様に一つの視点をお伝えしました。
それは「年収と入社後の期待値」の関係についてです。
高い年収で入社するということ

転職で年収が上がることは、もちろん喜ばしいことです。
しかし採用する企業の立場から考えると、高い年収で迎え入れた人材には当然高い成果を期待します。
誰であっても、入社時点ではまだ「実績のない人」です。
書類や面接で評価されたとはいえ、実際にその会社で成果を出せるのかどうかは未知数です。
どれほど優秀な経歴を持っていても、新しい環境では「後から入ってきた人」という立場からスタートします。
高い年収で入社した場合、採用した側としては当然それに見合う成果を期待します。
入社直後から高いパフォーマンスを求められるプレッシャーの中で、新しい環境に適応しなければなりません。
段階的に年収が上がることの意味
一方で現職と同水準や少し低い年収で入社して、実績を積み重ねながら評価されていく方法もあります。
この場合、高い年収で入社した場合と比べて入社時点での期待値は相対的に高くありません。
入社後に成果を挙げれば「期待以上の活躍をしている」と評価されます。
周囲との関係も築きやすく、実績に基づいた評価で年収が上がっていくため納得感を持ってキャリアを築くことができます。
また企業側としても最初から高い年収を提示するよりも、実績を見てから評価したいという考えがあります。
段階的な年収アップを提示するオファーは、企業側が慎重に人材を見極めたいという姿勢の表れでもあるのです。
「最初から高い年収で入社するのと、入社後に実績で上げていくのとではどちらが長期的に良いキャリアにつながるでしょうか」
私たちはA様にそう問いかけました。
A様の決断
A様は数日間、じっくりと考える時間を取られました。
視点を変えて考える

後日、A様から連絡がありました。
「おっしゃる通りだと思いました。目先の年収だけを見ていました」
A様は、転職先での長期的なキャリアについて改めて考えたそうです。
新しい環境で信頼を積み重ねて、実績を評価されて年収が上がっていく方が自分にとっても納得感があると感じたとおっしゃっていました。
内定承諾へ
A様は内定を承諾されました。
入社後は営業部門の責任者として新規開拓に注力されて、半年後の中間評価で高い評価を受けたと報告をいただきました。
「最初から高い年収で入社していたら、もっとプレッシャーを感じていたと思います。今は実績を出して評価してもらえているので、自信を持って仕事ができています」
A様はそうおっしゃっていました。
年収交渉で見落としがちな視点
A様の事例を通じて、年収交渉において見落としがちな視点についてまとめます。
入社時の年収がすべてではない
転職活動において、入社時の年収は重要な要素です。
A様のように現職から20万円下がるという提示は、決して小さな差ではありません。
ただ入社時の年収は、あくまでスタート地点でもあります。
入社後にどのような評価を受けて、どのようにキャリアを築いていくのかによって数年後の年収は大きく変わります。
入社時は希望よりも少し低くても、実績を出して評価されれば結果的に高い年収に到達することは十分に可能です。
目の前の金額だけではなく、入社後の評価制度や昇給の可能性も含めて総合的に判断することが大切です。
企業側の視点を持つ
年収交渉では自分の希望を伝えることも大切ですが、企業側の視点を持つことも重要です。
採用する側がどのような期待を持っているのか、その年収に見合うパフォーマンスとは何かを考えることで入社後のギャップを防ぐことができます。
「この年収で入社するのなら、どのような成果が求められるのか」という視点を持って、オファーを検討することをおすすめします。
長期的なキャリアを見据えた転職活動のために
転職で年収アップを目指すことは、自然な考えです。
しかし年収だけに目を向けてしまうと入社後に思わぬプレッシャーを感じたり、期待値とのギャップに苦しむことがあります。
大切なのは入社時の年収だけではなく、入社後のキャリアパス、評価制度、自分がその環境で力を発揮できるのかどうかを総合的に考えることです。
D&Mキャリアでは年収などの条件面だけではなく、入社後のキャリアも見据えた転職支援を行っています。
年収交渉の進め方に迷っている方、オファーを受けるかどうか悩んでいる方は、ぜひ一度ご相談ください。
一緒に長期的な視点で、最善の選択を考えさせていただきます。
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